猛虎歴研 スポーツライター殿堂

プロ野球史を記録した特に有能なライターを表彰し、その著書を推薦します。

名作家:一部フィクションも含むであろうが十分な取材の上に書かれた資料的価値が高く、
            なおかつ作家としての能力に長けて作品としての完成度が高い。
名記録:歴史記録として偉大であり、その存在意義が極めて高いもの。


名作家編

1.鈴木明 「プロ野球を変えた男達」新潮社

鈴木氏の作品は歴史的事実からヒントを得てフィクションを加え小説とする手法をとる。この本は決して阪神ファンのために書かれた本でない分、冷静に物語を見つめていると言える。小説として形成されている部分を見極めなければ資料として使えないのだが、作品の背景にある取材力はすばらしく深いのだ。
「プロ野球を変えた男達」では若林忠志の生涯を追う。この作業の中で、タイガース球団内にも記録がなかった1945年関西正月大会の存在を発掘した事は猛虎史を塗り替える出来事だった。
他にも「昭和20年 11月23日のプレイボール」で、戦後間もない頃のプロ野球の復興を取り上げたように、そのテーマ設定は他になく、徹底的に行った取材を背景に作品化した事が非常にすばらしいのです。

2.後藤正治 「牙、江夏豊とその時代」講談社

京都大学卒の文才。設定したターゲットに対し取材に基づいて物語を構成し、文才らしい文章を書く。
タイガースファンとして推薦すべき後藤氏の代表作が「牙、江夏豊とその時代」 だ。これは江夏の記録を書いた本ではなく、江夏の時代を書きたかったのです。同時期に発刊された 江夏の自伝「左腕の誇り」と比較すれば、表現したいテーマと手法が異なる事が明らかだ。そして物語としての完成度がきわめて高い。
他にも元カープの敏腕スカウトに張り付き取材を行った「スカウト」では、その想定される同行取材の時間と気遣いがすばらしい。後藤氏の作品は歴史的事実に対してもあまり誤記が発見できない為に、資料としての価値も非常に高いと思われる。

3.永田陽一 「ベースボールの社会史 ジミー堀尾と日米野球」東方出版

日米を又にかけて活躍した堀尾文人を追った作品が「ベースボールの社会史」
戦争のにおいがする日米双方の時代的背景を持たせ、堀尾を含めた当時の海外出身の日系人プレーヤー達のドラマを描く。アメリカ関係の取材を含め、一つ一つに事実にこだわった作品はどちらかと言えばかなり難読であり、1回読む程度では理解できない程の深さがある。この手の本は多くなく、また確実なデータを数多く上げている事から資料的な価値も極めて高いと思われる。


名記録編

1.松木謙治郎 「タイガースの生い立ち」 恒文社

元監督の松木氏が書いているだけに、彼が在籍した時期の記録としては他に並ぶ物など存在しない。特に戦前部分は、球団発行の球団史「阪神タイガース 昭和のあゆみ」の参考文献となっている程である。
松木氏独自の豪快な考え方で一方的見地から記載している部分もあるにはあるし、誤記誤植もかなり多数ある。だが、これに並ぶ資料が存在しない上に、タイガース史として一冊にまとめた事に価値がある。
85年発行の「大阪タイガース球団史」や奥井成一が追記した「大阪タイガース球団史 92年版」もあるが、大切な戦前部分は「タイガースの生い立ち」とすべて同じ内容であるので、どれか一冊読めば十分であろう。この本をベースに正誤を判断しながらタイガース史を追うベースとなりえる本です。

2.関三穂 「プロ野球史再発掘」 全七巻 ベースボールマガジン社

ベースボールマガジン紙上に連載された「プロ野球史再発掘」をまとめて7冊の本にしたそうである。過去現在にわたって「野球誌がこれほどすばらしい仕事をした事を見た事がない」と、私は絶賛している。
文章は言葉づかいが古い上、話し言葉をそのまま活字にしているために非常に難読である。一度や二度ながめた程度では言葉の奥にある口に出せない当事者達の複雑な気持ちを理解するのは難しい。それゆえ読者の読み方によっては様々な解釈ができる。この本をベースに色々な読み方をする人が意見をぶつけ合うのは面白い事です。
私は1940〜1960年頃の歴史的事件について、それまで様々な猛虎本を読んで得た知識を吹き飛ばされたようなショックを受けました。。

3.「阪神タイガース 昭和のあゆみ」 阪神タイガース

まずは一読すべき全3巻の超大作。発行が何年も遅れた事もうなずけます。
球団発行であるので、品位ある書き方で下劣な話は存在しない。球団トップの方針などもしっかり書かれており、新聞とは異なる記載も目につく。
古書でのみ入手可能であるが、古書でも平均18000円前後と高値がついている。阪神タイガースファンのみならず、プロ野球史研究家なら誰でも一読する価値はある。第二巻の資料編は試合の詳細資料が阪神−巨人戦だけであるのが誠に惜しい。これが全球団相手の全記録であれば、試合記録については他の資料が不要であった。


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