選手名鑑などの資料を開くと、新人王の項に「1955年 阪神 西村一孔」と記録させている。
西村一孔は新人でシーズン302奪三振を記録する素晴らしい働きを見せ、当時を知るファンにはあまりにも鮮烈な投手だった。反面、わずか数年間の活躍でプロ通算では31勝で終わる。このため1980年以後に多数発刊された猛虎本には詳しい姿をほとんど見掛ける事ができない。タイガースの歴史では通算100勝以上を上げた投手がたくさんいる。手軽な書物では若林・梶岡・小山・村山・江夏ら長く活躍したエース投手の記事で投手の項を終わる事が多い。西村一孔はより詳しい書籍でしか登場しない。
かく言う私も西村一孔投手の現役時代を知らない世代。
過去に新人王を獲得した投手だという事、すごい豪腕投手だったという事は知っていましたが、タイガースの歴史を研究する中で次々と興味深い事が掘り出され非常に興味が湧く選手になりました。もう何年か前のこと、選手の過去の経歴を調べるために毎日新聞社発行の「都市対抗野球大会60年史」を図書館で閲覧し、全藤倉で大活躍していた西村一孔の記事を見つけた時は「これほどの大投手だったのか!」と衝撃を受けました。
西村投手のポイントは
1.高校時代は捕手だった事
2.都市対抗で剛速球を投げて一躍有名になった事
3.55年入団なのに青木スカウトが絡んでいない事
4.太く短い活躍だった事
西村一孔は1935年10月11日山梨県大月市富浜町に生まれた。資料によっては鳥沢と書かれているが、これはJR中央線の鳥沢駅のある場所だからです。富浜は浜とつきますが山に囲まれた集落で、大月市の東側の場所です。新宿から中央線特別快速で高尾まで1時間、高尾から普通列車に乗り換えて5駅30分、東京から今の感覚でも1時間30分かかります。
後にタイガースに入団した西村公一は13歳年下の実弟です。
高校は5km程西にある大月市の都留高校に進学し、野球部に入りました。地肩が強い捕手として高校2年生の1952年夏、甲子園に出場しています。このチームのエースは1才年上の矢頭高雄で、西村は捕手兼控え投手でした。3年生の正捕手が故障して野球が出来なくなり、2年生の西村が夏の大会の捕手となりました。
矢頭高雄は中学時代から剛球投手として知られ、52年夏の大会は山静大会決勝で延長21回を投げ切って甲子園に出場した。立教大学で内野手に転向し主将で4番。大映−大毎−東京で11年間プレーし通算1240試合に出場。コーチもつとめた。
甲子園に出場した都留高校は、初出場だけに他校から全くのノーマークだった。
当時の新聞ではこう紹介されていた。
都留高校は都留中と都留高女を合併した。矢頭の打者の手元でホップする剛速球が武器。6月には日大三高に4−3で勝っており、第一次予選全試合を4点与えただけ、三振31個を奪った。矢頭は投打ともチームの中心で、その素質は選抜の静岡商・田所善治郎(国鉄で56勝)にも引けをとらない。内野は二塁・細目と遊撃・西室の守備範囲が広く、三塁・上条はやや弱い。中堅・小俣篤の守備は固い。打撃は小俣篤と八頭以外に打てる選手がいない。 |
西村については一言も語られていませんでした。
8月に入り、都留高ナインは西宮で合宿、甲子園練習や12日の開会式予行演習など、スケジュールをこなした。
8月13日
午前10時 甲子園開幕
320余名がグランドを一周して整列した。君が代が吹奏され、水戸商主将・豊田泰光(西鉄)が選手宣誓だった。
タイガースオーナー・野田誠三が長年にわたる高校野球の育成に努力した功績をたたえて表彰されていた時、空に「若風」「朝風」「そよかぜ」という朝日新聞の三機の飛行機が現れて始球式のボールを投下した。
8月14日
都留高校は1回戦で豊田泰光(西鉄)、加倉井実(巨人−近鉄)がいた水戸商業に敗退した。
水戸商 | 000021002 | 5 |
都留高 | 000000000 | 0 |
都留高校 | 打 | 安 | 失 | ||
1 | 2B | 細目 | 4 | 0 | 0 |
2 | SS | 西室 | 4 | 1 | 0 |
3 | CF | 小俣篤 | 4 | 0 | 0 |
4 | P | 矢頭 | 4 | 0 | 0 |
5 | C | 西村 | 3 | 1 | 0 |
6 | LF | 小俣孝 | 2 | 0 | 0 |
7 | RF | 市川 | 2 | 0 | 0 |
8 | 1B | 及川 | 3 | 0 | 0 |
9 | 3B | 上条 | 3 | 0 | 0 |
水戸商業 | 打 | 安 | 失 | ||
1 | CF | 鈴木 | 4 | 1 | 0 |
2 | 2B | 堀川 | 3 | 0 | 1 |
3 | SS | 豊田 | 4 | 1 | 0 |
4 | C | 根本 | 4 | 0 | 0 |
5 | 1B | 加倉井 | 4 | 2 | 1 |
6 | P | 高畑 | 3 | 2 | 0 |
7 | LF | 小野瀬 | 3 | 0 | 0 |
8 | 3B | 清水 | 2 | 0 | 0 |
9 | RF | 小林 | 1 | 0 | 0 |
打 | RF | 黒沢 | 1 | 0 | 0 |
都留高校は2・3・4回と相次いで迎えた好機をものに出来ず、逆に4回まで矢頭の手元で伸びる速球に完全に抑えられていた水戸商にチャンスが訪れた。5回加倉井のつまった打球は二塁塁上をフラフラ超える安打となり、高畑の遊ゴロも内野安打となった。小野瀬の二ゴロを遊撃手が後逸する間にまず1点。清水は初球をスクイズしてこの回2点を先取した。6回には鈴木の左飛を左翼と中堅が譲り合って2塁打とし、堀川のバントと豊田の二塁への内野安打で得点。これで水戸商は絶対的に優位に立った。高畑はそれほど球威がなかったものの都留打線が打ち込めず、後半は高畑に完全に抑えられた。
(試合結果 朝日新聞 27年8月14日朝刊記事より)
制定 2003年11月
改訂1 2010年7月11日