２．阪�~と野球の出会い

客観的には受け身

箕面のローカル線だった阪急は沿線の宅地開発を行って住民を増やし、売り上げを伸ばした。
これに対して、旧街道の街をつなぐ阪神は沿線開発に手を入れていないように記載される資料をよく見る。
確かに阪神主導の大型宅地開発は甲子園近辺ぐらいだが、実際に阪神沿線と阪急沿線を比較してみるとニュータウンのように開発できる土地（山）が阪神沿線に存在しなかっただけの話。沿線の国家的重要度が阪急と比較して遥かに高いため、土地があっても産業上重要な阪神沿線では、武庫川団地や浜甲子園団地のように住宅公団が主導で開発してしまう。
他力本願ではあるが沿線に客を呼び込むための努力を怠っていたわけではない。武庫川団地駅も、団地建設と平行してわざわざ路線を延長した。「受け身でありながら全力投球」与えられた中で努力を行っている。
野球に対する取り組み方も同じで、受身でありながら全力投球だろう。

香櫨園と野球

阪神電鉄と野球の関わりは「香櫨園」に起源する。 阪�~電鉄が開通した年1905年、芦屋の打出浜（阪神打出から南の海岸　現存しない）に関西初の海水浴場がオープンし、阪�~電車を利用して海水浴に出かけるようになった。しかし、打出浜は牡蠣の貝殻が多く海水浴場には適していなかったため、海水浴場は西宮の香櫨園浜に移った。 海水浴客は年を追うごとにその数を増して、連日香櫨園浜を埋めつくした。1914年川西航空機の水上機が飛び立ったのもこの香櫨園浜だった。香櫨園浜は遊泳禁止だが、ウィンドサーフィンを楽しめる浜として現存している。 当時は日露戦争終結時の好景気だった。大阪北浜の砂糖商人・香野蔵治が、同族の櫨山慶次郎と共に西宮の夙川一帯　約１万坪の開発を計画し、1907年4月1日に一大遊園地が誕生した。二人の苗字から「香櫨園」と命名された遊園地には動物舎・奏楽堂・博物館・ウォーターシュートなど、何でもあった。阪神電鉄は新駅の設置と資本援助する事で経営に参加した。 香櫨園（右図　出展：輸送奉仕の５０年）の左端に運動場がある。 スポーツ活動を奨励していた阪�~電鉄は運動場で自転車競走・凧揚げ大会・運動会・模型飛行機大会など、さまざまな活動を行う事にした。 1910年、早稲田大学がシカゴ大学野球部を招いて親善試合を行う事になった。関西地区でも試合を行うべく大阪毎日新聞が主催し案画する事とした。 当時、関西地区には三高（現在の京都大学）ぐらいしか「見せる野球」をやっている所がなかったので、適当な球場がなかった。そこで目をつけたのがこの運動場だった。 阪�~電鉄は毎日新聞の依頼を受けて、わずか２週間の突貫工期で「香櫨園運動場」に急造の野球グランドを完成させた。これが阪�~グループ最初の野球場となる香櫨園グランドだった。親善試合の模様は1910年12月25日付の大阪毎日新聞に出ている。写真に写っている審判の西尾氏によると、グランドは「広っぱに毛がはえたようなもの」だったそうだ。広さは約５０００坪あったが、レフト側は本塁から３０間の所を境に下りスロープになっていて、こちらに打球が飛ぶと大変な事になったそうだ。なにはともあれ、親善試合は盛況に終わり電鉄はその利用客で莫大な利潤を得た。 降って沸いたような出来事だったが、「関西で初めての日米対抗野球」が阪�~本社の野球との出会いだった。

香櫨園が後に外国人（サミエル商会）に経営が移った事で阪神電鉄は香櫨園の経営から身を引いた。 そして1910年頃より香櫨園は下火となり、結局1913年に廃園となった。　動物園の動物は箕電（阪急）が新設した箕面動物園に引き渡した。 現在でも図の右下に描かれているの内澱池は阪急夙川駅前のダイエーの裏に実在します（右写真）。 私はこの近辺に住んでいたので、香櫨園グランドがあった所を容易に推定できますが、グランドに適したような広大な平地がありません。グランド内にかなりの傾斜があった事は間違いない事実でしょう。 当時の建物が一部（ホールなど）残っていたのですが、阪神大震災のときに全壊しました。 阪神電車は硬派の経営方針で運動事業関係に熱心に取り組んでいた。 また、1908年と1909年に相次いで完成した武庫川両岸の２つの競馬場（後に鳴尾球場となった）や、1910年の甲子園７番町周辺宅地開発（阪神住建の起こり）など、鉄道の開通以降沿線の開発が一気に進んだ。

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参考文献
輸送奉仕の５０年　（阪神電鉄　１９５５）
阪神タイガース昭和のあゆみ　プロ野球前史　（阪神タイガース　１９９１年）
日本の遊園地　　　（橋爪紳也　講談社現代新書　２０００年）
西宮市史
大阪毎日新聞

写真撮影：げんまつWEB

げんまつＷＥBタイガース歴史研究室